二元論となると、ここでまったく異種の二実体がどのような関係に置かれているのかと言うことを説明する必要が生じます。両者を相互に媒介する必要に迫られたデカルトは、苦し紛れに当時身体の中では唯一対として存在しないと考えられていた脳内の松果腺1を両者が接触する場とすることにしましたが、現在では松果腺にも対称性があることが分かっているため、理論的には破綻でしかありません。
Das Wesen des Ich ist für ihn [Descartes] Denken, sonst nichts; Denken freilich in der weiten Bedeutung, die auch Fühlen und Wollen, kurz, den ganzen Bereich des Bewußtseins umfaßt. Damit aber tut sich eine schwer überbrückbare Kluft auf zwischen dem Menschen als bewußtem Wesen, als „denkendem Ding“, und den anderen nicht bewußten, nicht denkenden Wesen. Das Ich ist nicht gesehen als der konkrete Mensch in seiner konkreten Welt. Das bloß im Bewußtsein lebende Ich verliert den Kontakt mit den Dingen. Mit Descartes also beginnt die neuzeitliche Zerreißung der Wirklichkeit in weltlose Subjekte auf der einen und bloße Objekte auf der anderen Seite, die noch heute das Philosophieren über den Menschen und über die Welt belastet. (Weischedel, Hintertreppe, S. 122)
自我の本質はデカルトにとっては思惟であり、それ以外の何物でもない。この場合の思惟とはもちろん感覚や意志も含んだ、簡単に言えば意識の全領域をも含んだ広義の意味で使われている。しかしここで意識存在としての、「思惟するもの」としての人間とその他の意識を持たない、思惟しない存在との間に越えることのできない深淵が出現することとなった。デカルトにおいては自我は具体的な世界における具体的な人間とは見られていない。単に意識内にのみ生きる自我はものとの接点を失っている。それゆえデカルトと共に現実の、一方における無世界的主体と他方における単なる客体とへの近代的亀裂が始まり、これは今日に至るまで人間と世界を哲学する際の足かせとなっている。(ヴァイシェーデル『哲学の裏階段』)
デカルトはまた個別科学にも通じ、生理学をもよくし、数学で現在でも使われているデカルト座標系2 を始めとして、天文学でもコペルニクス的世界観による『世界論』3 を著しましたが、ガリレオが弾圧されたのを見て出版を控えざるを得なくなり、作品は死後になってようやく刊行されることになりました。
デカルトの近代的思惟を受け継いだスピノザは、この相互に接点のない二元論の難点を克服するのにデカルトの唱えた延長(extensio)と思惟(cogitatio)と言う両実体は、共に唯一の存在であり、唯一の実体4 である神(自然)5 の属性(attributa)6 に過ぎないと規定しました。これがスピノザの一元論7 ですが、個々の存在はまた全て神または自然を体現していると言う点では汎神論8 ともなります。これら自然界における物質や動植物、人間の制作した作品、夢や思惟などの意識状態、被造物9 である個々の存在は、全て神(自然)の様態(modus)10 として位置付けられ、真の存在としては無限にして絶対なる神(自然)11 があるのみで、これは無限にある、その属性のいずれもが表現している「永遠で無限の存在」12 とされます。このスピノザの神と自然を同一視する考えは、教会の世界や自然を創造した神は世界や自然を超越していると言う説に背くこととなり、無神論と看做されることにもなりました。
スピノザはその思想を体系化するに当たって数学の公理から始める手法を使いました。このような、学問はその構築された体系においてあると言う考え方が、ロックを始めとする英国の経験主義13 と対比される(欧州)大陸の合理主義14 の一般的理解となりました。
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1 Zirbeldrüse, Epiphyse – pineal gland, epiphysis – épiphyse
2 Koordinatensystem – Cartesian coordinate system – coordonnées cartésiennes
3 Le monde (Traitée du monde et de la lumière) Paris, 1662-1677。『宇宙論』とも訳される。執筆は
1629~33年あたり。本書を死後の出版にするとデカルトに告げられた友人が、それなら早く読み
たい人に殺されてしまうかも知れないと冗談を言っていたと言うことです。
4 Substanz (Spinoza: Ethik, 1. Über Gott, Definitionen, 3)
5 „Deus sive natura“ (神または自然)(l.c., 29. Lehrsatz, Anmerkung).
6 Attribut – attribute – attribut. (l.c., Definitionen, 4)
7 Monismus – monism – monisme
8 Pantheismus – pantheism – panthéisme
9 „natura naturata(創造された自然)“, 創造者は „natura naturans(創造する自然)“, 元はスコラ学派の
用語です。
10 Modus – mode – mode. (l.c., Definitionen, 5)
11 Gott – god – dieu. (l.c., Definitionen, 6)
12 Gott ist „das absolut unendliche Wesen, d.h. die Substanz, welche aus unendlichen Attributen besteht, von
denen ein jedes ewiges und unendliches Sein ausdrückt.“ (l.c.) 神は「絶対に無限な本質、即ち、そのいずれ
もが永遠で無限の存在を表現している、無限の属性からなる実体」である。(同上)ただし、人間は
この無限にある属性のわずか二種類、即ち、思惟と延長しか認識できないことになります。
13 Rationalismus – rationalism – rationalisme
14 Empirismus – empiricism – empirisme
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