すでに見てきたように、象徴として機能するものには、天帝ゼウスや愛の女神ヴィーナスなど架空の存在、ブランデンブルク門や帝国議事堂のような建築物、三種の神器や豪華な車など具体的な物件、さらには天皇や英女王などの実在の人間などもあります。象徴と類似した言葉にエンブレム*1があります。ドイツ語では Abzeichen や Erkennungszeichen とも言いますが、ギリシャ語(ἔμβλημα)やラテン語(emblema)が出自(もと)で、モザイク(Mosaik*2)や嵌め込み(Intarsie*3)などの象嵌*4細工を言っていました。そこから他の場所に嵌め込んだ像や文章なども言うようになり、結果的にはそれ自身ではない他のものを表すと言う象徴の意味が付与され、これが画像化されることになりました。さらにこれを意匠化した象徴記号または記章ともなりました。歴史的に見ると実に様々な国章や紋章が考案されています。また美術史的にはルネサンス期に流行った標語*5と図案*6を合併した「エンブレム」がありますが、後には警句*7も加えてワンセットとされました。有名な例は、オランダの人文学者ダニエル・ヘインシウスの「愛は何よりも強し」(1620)です。
Lemma: Omnia vincit amor (Amor besiegt alles), aus einem Hirtengedicht von Vergil. Icon: Amor reitet einen widerwilligen Löwen. Das lateinische Epigramm nach Hugo Grotiurs (1583–1645) lautet in Übertragung: „Ich habe ihn gesehen, der den wilden Löwen bändigen kann: Ich habe ihn gesehen, der als einziger die Herzen zähmen kann: Amor“.*8
標語 愛は何よりも強し ウェルギリウスの牧歌から。像 アモール(愛=キューピッド)が荒々しいライオンを乗りこなす。 フーゴ―・グロティウスから採ったラテン語の警句は、訳すと「荒々しいライオンを調教できる彼を見た、唯一心を癒すことができる彼を見た――それはアモール」
初期のエンブレムとしては、イタリアの人文学者で『エンブレマタ』を著したアンドレーア・アルチャートの同じモチーフからなる「最強なる感情は愛」(1531)*9も有名です。こちらも後のヘインシウスと同様に猛々しいライオンをも馴致してしまう愛の強さを賞賛したものです。警句は初期には標語と図案の謎解き的な要素が強かったのですが、時と共に簡単な教訓や道徳的内容に移行して行きました。

図1 エンブレム「愛は何よりも強し」と「最強なる感情は愛」
また全く個人に特化したエンブレムも考えられました。これらは、聖人の場合はアトリビュート(持物)*10、王侯の場合は私的意匠*11と呼ばれます。アトリビュートは、例えば聖アントニウスでは豚*12、聖カタリーナなら車輪*13、天国の鍵を預かる聖ペトルスは鍵*14、ヤコブの道(サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路)の聖ヤコブ(大)はホタテ貝*15と言うように、その肖像と共に描かれ、それぞれの人物を象徴する物となっています。

図2 アトリビュート 聖アントニウスと豚 聖カタリーナと車輪 聖ペトルスと鍵 聖ヤコブとホタテ貝
私的意匠では、太陽王ルイ14世は太陽*16がそのエンブレムであり、フランソワ1世なら山椒魚*17(Salamander – salamander – salamandre)となります。英国の貴族ドゥ・ボーン家・ヒアフォード伯・エセックス伯の白鳥*18は王家を輩出する家系のエンブレムです。

図3 私的意匠 ルイ14世とフランソワ1世 ドゥ・ボーン家等の家紋
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*1 „Emblema“ (ἔμβλημα). WPd „Emblem“ 参照。また「道徳的真理や寓意といった概念を要約する、
あるいは王・聖人といった人物を表す、抽象的あるいは具象的な画像のこと。日常会話に
おいては、「エンブレム」という語はしばしば「シンボル」(象徴・シンボル)と同じ意味
で使われるが、厳密には両者の間には区別がある。「エンブレム」は、観念または特定の人や
物を表すのに使われる図案を指す。具体的にエンブレムは、神性・部族または国家・徳または
悪徳といった抽象概念を視覚的な用語で具体化させたもので、対象または対象の対応物であ
る。」(ウィキペディア「エンブレム」)
*2 WPd, Mosaik.
*3 Intarsie – inlay – marqueterie, incrustation. Cf. WPd, Intarsie
*4 Einlegearbeit – inlay, damascening, marquetry, setting – incrustation, marqueterie
*5 Lemma, griech. λῆμμα, lat. vocalium signum oder inscriptio, ital. Motto. (Kunstdirekt, Emblem).
*6 Icon, griech. εἰκὠν, lat. pictura. (Kunstdirekt, l.c.).
*7 Epigramm, griech. ἐπἰγραμμα, auch lat. subscriptio. (l.c.).
*8 WPd, Emblem (Kunsthitorische Kategorie), Foto: Heinsius *9 l. c., Foto: Alciato
*10 Attribut – attribute – attribut. 普通には属性、文法では付加語となりますが、西洋美術史的
には「人物に加味する一定のもの」“Charakteristische Beigabe einer Figur” (Kunstdirekt, Attribut) と
しての象徴物となります。Cf. ウィキペディア「エンブレム」
*11 Persönliches Zeichen – personal device – marque personnelle
*12 ヒエロニムス・ボス「聖アントニウスの誘惑」、Foto: Hl Antoniusマドリードのプラド美術館
*13 カラヴァッジョ「聖カタリーナ」Foto: Michelangelo Caravaggio 060マドリードのテュッセン美術館
*14 エル・グレコ「聖ペトルスの悔い」Foto: Hospital de Tavera, Toledo
*15 エルビゲンアルプ教会「聖ヤコブ」Foto: Pfarrkirche Elbigenalp
*16 Sonnenkönig – Sun King – Roi soleil. *17 Salamander – salamander – salamandre.
*18 Schwan – swan – cygnet; de Bohun family
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